役者を目指すとき、まず頭に浮かぶのが華々しい芸能事務所の世界。日本では、テレビや映画で目にするスターのほぼ全員がどこかの事務所に所属しています。事務所自体も新人募集に力を入れている所は多く、調べてみればすぐにどこかのオーディション情報が見つかることでしょう。
しかしいざ挑戦するとなるとその世界は狭き門
フリーランスで活動するつもりはないのに中々どこにも入れないと悩む役者さんは少なくありません。とはいえ最近ではSNSの盛り上がりもありフリーランスからステップアップするタレントの方々も増えてきています。
- 事務所探しに難航している人
- 事務所の入り方が分からない人
- そもそも活動形態に迷っている人
上記が当てはまる人は、まず事務所所属によるメリットとデメリットから押さえておくことが肝心です。
メリットが自分にとって大きいか・デメリットが自分にとって問題ないか確認しながら自分なりの歩き方を見つけていきましょう!
事務所に入るメリットとは
一口に事務所と言ってもその形態はさまざまです。老舗では当たり前のルールでも新しい会社では存在しないことだって起こり得ます。芸能事務所を探すときには設立年やこれまでの歴史をできるだけチェックしておくのがおすすめです。
各事務所の特色を踏まえた上でメリットとデメリットの影響を考えていきましょう。事務所に入るメリットは以下のとおりです。
受けられるオーディションが増える
映像関連の作品に出演できる
仕事にマネージャーがつく
客観的なアドバイスが貰える
税務処理を任せられる
①オーディションが多い
事務所に所属して一番大きく変化する点が公募していないオーディションの存在です。オーディションには誰でも受けられる公募型のものと限定的にしか周知されていない非公開のものがあります。しかし事務所ではこうした限定的な情報も流れてくることが多く、フリーでは受けられなかったものが受けられるようになります。具体的にはCMやドラマのキャストオーディションといった映像作品の案件です。映画やドラマで活躍したいのであれば、まず事務所に所属するのが近道といえるでしょう。
②マネジメントが受けられる
事務所にはタレントのマネジメントを行うマネージャーが存在します。マネージャーの仕事は多岐にわたりますが、役者に大きく関係するところでは以下のとおりです。
- タレントの売り込み
- オーディション探し
- ヘアスタイルの指南や体型管理
- スケジュール管理
- 現場でのアシスタント
俳優は事務所にとって大事な商品にあたります。そのためマネージャーはその管理全てを担う重要な存在です。主観では得られなかった役者の魅力を理解して外側から助言を行ってくれる監督のような立ち位置といえるでしょう。
また売れれば売れるほど煩雑になるスケジュール管理を代行してくれるのも事務所に属するメリットです。
③案件ごとの手続きを任せられる
案件ごとの契約管理がお任せできる点も事務所所属の利点です。本来なら作品ごとに出演料などの取り決めや契約が必要となります。しかしタレントのマネジメント業務を担う事務所では、俳優が直々にそうした手続きを行う必要はありません。基本的には事務所に専属の税理士が存在するため、その方が手続きや必要な対応を代わりに指示してくれます。
煩雑な税務処理や契約手続きは任せた上で自身の仕事に集中できる点も、所属する大きなメリットといえるでしょう。
事務所所属のデメリットも知ろう
しかし事務所に入ると良いことばかりではありません。以下のデメリットについても所属を検討する前に必ず把握しておきましょう。
髪型や体型は変えられない
オーディションは事務所管理
休みが取れない
事務所内での立ち位置が難しい
①髪型や体型は事務所管理
所属俳優は基本的にルックスも事務所の管理下となります。そのためヘアスタイルやネイルはもちろん体型も勝手に変化することは許されません。事務所に提出した宣材のままであることが所属する上でのルールです。髪の長さを保ったり写真より太ったり痩せたりすることができない点は、所属する煩わしさといえます。
一方で自分でスタイリングする人が苦手な人にとっては楽な点ともいえるかもしれません。宣材の自分を忠実に守っていればOKですのでセルフプロデュースがかからないとも考えられます。
②オーディションは事務所が決める
相当な売れっ子でない限り自身が受けるオーディションや作品はすべて事務所預かりとなります。出たい作品があったとしても事務所がNGを出せば受けられない点がデメリットです。特に舞台メインの事務所は映像案件が、映像メインの事務所は舞台案件が受けにくい傾向にあります。事務所への所属を検討する際には各事務所が得意とする市場を必ず確認しておきましょう。
③NGが出せない事務所も
意外と知られていないのが休みの不安定さです。ドラマや映画などのオーディションは末端であればあるほど直前に声がかかります。
こんな会話は日常茶飯事で完全な休みは当日になるまで分かりません。自分から出せるNGは月1回のみ、もしくは親族の冠婚葬祭のみというところもあります。旅行や遊びはもちろん継続できるアルバイトもかなり限られる点に注意しましょう。
④事務所内で派閥がある
事務所も所詮は会社の一つ。事務所内での派閥争いが勃発しているケースもあります。
どのマネージャーについていくか
どれくらいの頻度で顔を出すか
事務所内での立ち回りも仕事を手に入れるための試練です。とはいえ事務所に入ると後はオーディションに受かるだけと考えがえてしまいがち。その前にオーディションを獲得するための水面下の戦いがあることも覚えておきましょう。社交性やコミュニケーション能力も事務所で売れていくために必要な要素です。
フリーで活動するメリットもある
フリーランスで役者をやるとなるとかなり厳しく思う人も多いかもしれません。しかし最近ではネットでできることも多く苦手なものはいくらでも外注できるためフリーになる人も増えてきています。具体的なメリットは次のとおり。
自分の世界観を構築できる
好きな分野に進める
休みや生活のリズムを決められる
制限がない
ファンと自由に交流できる
①自分で売り方をプロデュースできる
フリーの人は自分の売り出し方を自分で決めることができます。
- どんなルックスに仕上げるか
- 何を見せて何を見せないか
- どんな分野の仕事を受けていくか
俳優にとって自分自身の売り出し方は、転機を決める重大な要素の一つです。いつどこで誰に見られているか分からない世界。何を武器としてどこで戦っていくかは、役者の色を決める大切な要素となりえます。
フリーになれば世界観を自分で決めなければいけない反面、好きな自分を選択できる点がメリットです。
②好きな案件を受けられる
事務所ではどうしても利権がらみの仕事が起きがちです。
そう感じる仕事を切り離せる点もフリー役者のメリットです。
仕事を選ぶということは一見ワガママに見えるかもしれません。しかし人間が商品となる芸能の世界では、自分とあまりに乖離してしまう危険も大いに起こりえます。
事務所に従うあまり自律神経障害を起こしてしまった仲間を見てきた身からすると、自分と仕事のバランスを保てる立ち位置を選ぶことも役者にとっては大切なポイントです。
③自分のペースで生活ができる
事務所ではマネジメントをすべて担ってくれる反面、状況が自分でつかみにくくなります。特に下積み時代はギリギリなスケジュールも多く、夜に翌朝の現場が入ることも少なくありません。生活のペースが事務所次第となるのが所属俳優のデメリットです。
一方フリーランスであれば自身でスケジュール管理を行うことができます。詰め込み過ぎたと思えばオーディションを減らしたり、時間があると感じたら思い切ったスケジュールが組めたり、常に自分の余裕と相談しながら生活できる点が魅力です。
④生活やプライベートの制限がない
事務所によってさまざまではあるものの所属すると事務所のルールが出現します。例で言うとこんなところです。
- ヘアカラーやパーマ禁止
- ネイル禁止
- 旅行などの遠出はスケジュール提出が必須
- 友人との結婚式や家族旅行などのNGは禁止
- SNS禁止もしくは投稿前の検閲が必須
芸能はイメージ第一の世界。世間では問題なくともクライアントの企業にとっては問題になることも多々あります。
芸能事務所はそうした不祥事を未然に防ぐためにも、厳しいルールを設けている場合が多く私生活にも上記のようなルールが及んできます。これについての考えはさまざまですが、フリーランスではそうした制限が無くなることもある種のメリットといえるでしょう。
⑤自由な交流が実現できる
意外と見落としがちなメリットが交流の変化です。コネクションが大切な芸能界。汚い話ではなく誰に知ってもらって誰とつながって誰と作っていくかはマネジメントの重要な項目です。
こうした行動が事務所のワンクッションなく即座にできる点もフリーランスならではの利点です。特にコミュニケーション能力が高い人や人とつながるのが好きな人は、まさにフリーランス向きといえるでしょう!(もちろん所属でも激強ですが)
フリーランス俳優はデメリットも多い
とはいっても苦労は多いのがフリーランスの世界。すべて自由というメリットには、すべて自己責任というデメリットが隠れています。キラキラした利点ばかりでなく地道で泥臭いフリーランスの苦労も知っておくと安心です。
セルフプロデュースが必要
受けられる案件が少ない
営業も交渉もすべて自分
すべて自己負担となる
①自分を売るためのセンスが必要
フリーランスになるとセルフプロデュースは大前提。自身を売るためにセンスを磨くことはフリーであればあるほど大切になっていきます。
- 自分に似合った髪型は?
- 自分に合う役柄は?作品は?
- 自分が他よりも特化している点は?
- 自分を好きになってくれるメインのファン層は?
自分に合った売り方をできることは芸能活動を広げていく上でも大事な一要素です。自身を客観的に見ながらプロデュースを模索していく苦労は、フリーランスならではのデメリットといえるでしょう。
②公募される案件は少ない
フリーランスと事務所所属で最も異なるのがオーディション案件の少なさです。フリーランスで受けられるオーディションは公募型に限られるため、当然事務所所属よりも幅が狭くなってしまいます。
特にドラマや映画など映像関連のオーディションはほとんど公開されていません。舞台であっても人気の劇団や大きな劇場でのオーディションは特定の事務所のみに連絡が届きます。フリーランスでは【オーディションを受ける+コネクションを形成していくこと】を念頭に置いて活動を進めていきましょう。
③営業や金銭の交渉も自分次第
フリーランスになるということはすべての業務を自分で担うということです。
- 作品やオーディションへの営業
- ギャランティーの交渉
- 現場での下準備やあいさつ回り
- 作品参加中の諸連絡
大きな舞台であればあるほど芝居と並行して上記をこなすのは非常に大変な作業です。芝居だけに集中したくても諸連絡や下準備に追われてしまうのは自由なフリーランス業の難点といえます。
④経費はすべて自己負担
俳優業は思いがけない場面でさまざまな経費がかかるもの。次のような出費もフリーランスでは基本的に自己負担となるため注意しましょう。
- 舞台や映像作品での衣装
- 肉体改造のためのジム月謝
- コロナウイルスの市販検査薬
- 撮影場所への交通費
- オーディション用の小道具
もちろん事務所所属であっても出してくれるところと出してくれないところがあります。しかしフリーランスでは、最初からすべてが自己負担となるのがデメリットです。夢のための投資とはいえ生活に支障が出るほどの出費は精神衛生上宜しくありません。フリーランスでは生活費と自己投資のバランスにも注意していくことが大切です。
結局事務所には入るべき?
事務所所属とフリーランスのどちらが良いかは結局その人次第です。わたしの周りでは事務所に所属した途端垢抜けて売れ始めた子もいれば、フリーになった途端意外なジャンルで跳ねた人もいます。今回をザックリまとめるとこんな感じ。
- 演劇よりは映像メインで活動したい人
- マルチタスクよりシングルタスクが得意な人
- 税金や経費などお金の管理が苦手な人
- とにかく芝居だけに集中したい人
- セルフプロデュースに自信のない人
- 自己管理能力に長けている人
- ジャンルや型にこだわらず活動したい人
- セルフプロデュースに自信がある人
- 仕事のすべてを常に把握しておきたい人
- フットワークが軽い人
事務所選びもアルバイト選びと同じ。自分にとってのメリットとデメリットどちらが大きいかを知ることが成功への近道です。表裏一体の利点と欠点を踏まえて自分の損が少ない道を見極めていきましょう!