想像力とは頭の中に具体的なイメージを描く力。文字のみで記された物語を立体的に作り上げる、役者にとって欠かせない能力です。
しかしこの力は、子どもの頃は豊かであっても大人になるにつれ衰えていくという特徴があります。想像力が足りないと役者としての力不足を招く上に、
コミュニケーション能力の欠如
感情コントロールの不足
が起こり仕事が上手く回らない原因にも。
そこで今回は想像力を鍛えるためのトレーニング方法を7種ご紹介します。日常の中で気楽に取り組めるものもあるのでできる所から取り入れてみましょう!
想像力とはなにか
想像力は役者にとって不可欠な能力です。
芝居の出来を左右する能力といっても過言ではありません。
よく間違われる言葉として「空想力」がありますがごっちゃにならないよう各々の意味を見ていきましょう。
芝居と想像力の関係
想像力の意味を調べてみると以下のように出てきます。
想像力(そうぞうりょく、英語: imagination、フランス語: imagination)は心的な像、感覚や概念を、それらが視力、聴力または他の感覚を通して認められないときに作り出す能力である。想像力は経験に意味を、知識に理解を提供する助けとなり、人間が物事や現象を理解するための基本的な能力の一つである。また、学習の過程においても補完的な役割を果たす。
少し分かり辛いので解説するとある物が五感で感じられない時に、頭の中である物を作り出す能力
になります。
例えるなら『目の前にアイスが無くても、その見た目や色を頭に描いて、冷たさや甘さといった感覚を思い出すこと』といった感じです。
ベニヤで作られた壁をコンクリートの壁のように扱ったり、目の前にない食事をあるかのように飲み食いしたりと、舞台などの演出を思い浮かべると分かりやすいかもしれませんね。
このような表現方法はまさに観客と役者の想像力がなせる技です。
想像力と空想力
似たような概念として「空想力」があります。
これは想像力と同じく頭の中にイメージを描く能力ではありますが、現実に対する在り方として決定的な違いがみられます。ネットで「空想」について調べると、
といった説明がなされています。
つまり空想力は、現実ではあり得ない物事をイメージする力のことで物語の出発点となる視点です。すなわち役者というよりも、小説家や脚本家に必要な能力といえるでしょう。
対して想像力は現実に起こり得る物事をイメージする力のこと。嘘を真実として演じる役者に必要とされるのは「空想力」ではなく、こちらの「想像力」となります。
想像力が欠ける理由
想像力は子どもから大人になっていくにつれて変化していきます。
よく著名な画家や映画監督、俳優などが「少年、少女のよう」と評されることがありますがその言葉の通り子どものような自由さは想像力において欠かせないポイントです。
想像力が失われる原因と、子どもに見る想像力を育むヒントについて探っていきましょう。
すぐに欲望を満たせるネット社会
現代は、ニュースも知識もすぐに検索することができるインターネット社会。気になったことは検索すれば、ほとんどのことが解決できてしまいます。
特に毎秒の速度で情報が流れるSNSは、情報を得るのに画期的なツール。情報収集のほかにも、暇つぶしとして活用する人は少なくありません。
しかしこのネットの快適さこそが想像力を失う原因。何でも調べられる便利さゆえに自分で考える努力をなくしてしまうのです。
想像の食わず嫌い
食べ物の食わず嫌いがあるように、想像の世界にも食わず嫌いが存在します。
私たちは大人になればなるほど経験を積み重ねていくものですが、その経験の豊かさは想像の好き嫌いによって異なります。
例えば「話したことはないけれど苦手かもしれない人」と偶然二人きりになった時、あなたは話しかけるでしょうか?
想像するのが難しい人は、きっと話してもつまらないに違いないと考えて、話しかけることなどしません。結果いつまでも話したことはないけれど苦手かもしれない人のまま苦手意識を持ち続けることになります。
一方で想像力豊かな人は「話したことはないけれど苦手かもしれない人」でも、とりあえず話しかけてみる傾向にあります。
なぜなら自分が持つ苦手意識はあくまで想像のものだから。実際に話してみるまでその想像が本当かは分かりません。想像だけの好き嫌いを現実にまで持ち込むと、かえって想像力を育む妨げになります。
色んな人と出会い、色んな価値観を知り、色んな社会を学ぶことが想像力を育む第一歩です。
コミュニケーション不足
これは「ネット社会」や「想像の食わず嫌い」が合わさって生まれた、想像力を妨げる原因です。
自己完結が可能なネット社会では、大体の疑問を他者の力を借りずともインターネット一つで解決することができてしまいます。すると現実世界では、なるべく好きな人とだけ絡んでおくことも可能に。
苦手なものや嫌いなことはなるべく避けて生活できるため、コミュニケーションは最低限で済んでしまうのが今の世の中といえるでしょう。
コミュニケーションは、他人同士が何らかの関係になるために必要な行為です。そこでは常に相手の気持ちや思いを考えるための想像力が働きます。
- どの言葉であれば相手を不快にさせないか
- 何のために今その質問がされたのか
- どうして黙ってしまったのか
日頃から人と話すだけでも、想像力は養うことができます。さらにこの想像力は、初めましての場や相手に苦手意識がある時により働くものです。
さまざまな価値観を知るためにも、なるべく人の好き嫌いはせずコミュニケーションを取っていくことも想像力を鍛えるポイントとなります。
大人が学ぶべき”子どもの想像力”
どんな名優も、子どもと動物には勝てないといわれるように子どもと動物は、人を惹きつける芝居をいとも容易くやってのけます。
それは常識や普通といった概念に縛られない、豊かな想像力の賜物。
想像力は経験に裏打ちされるものですが、子どもには大人のような経験がありません。だからこそ子どもの想像力には、可能性や現実といったものが排除される傾向にあります。
例えば恋人同士が緊張して向かい合っているシーンを見せると、大人は別れ話をしているかプロポーズする直前ではないかと推測する人が多いでしょう。
けれども子どもは、トイレを我慢している、にらめっこしているなど、自分が黙っている時を想像してシーンの状況を推測します。
この発想の自由さは子どもの頃には誰もが持っていたものです。しかし大人になっていくにつれ、その想像は「普通なら…」という条件が付いて回るようになります。
子どものように普通や常識を一切かなぐり捨てて物事を見つめてみると思いもよらなかった可能性が生まれてくるかもしれませんよ。
想像力を鍛える7つのトレーニング
①本を読む
想像力を鍛えるには小説を読むことが一番です。文字が並んだだけの表現世界では、自分の想像力こそがキャラクターやストーリーを立ち上げるヒントになります。
自由に想像するためにも本を選ぶ際はなるべく挿絵がないものを選ぶようにしましょう。
内容は好きなものでかまいませんが、SFやファンタジーは特に想像力が要されるため想像力を鍛えるのにぴったりのジャンルです。そうであったかもしれない自分の人生を小説で追体験しながら、想像の世界を楽しんでみてください。
②日記をつける
一日の記憶を掘り起こす日記は、想像力を鍛えるのに最適なルーティンワーク。食事を記していくだけでも、その時に交わした会話や見た風景が一緒によみがえります。
小説を読むのがインプット型のトレーニングだとすれば日記をつけるのはアウトプット型のトレーニング方法。
日々続けていくことで、文章から記憶を結びつける作業がスムーズになるのも日記の魅力です。
その結果、芝居でも一つの物事からイメージする景色や会話が広がり、より豊かな想像力で芝居の背景を見つけることができるようになります。…かもしれないという思考を広く持つことは、芝居の可能性を広げるポイント。芝居のアイデアやキャラクターも、この思考から着想を得ることが多いものです。
③コミュニケーションの場を広げる
想像力を鍛えるには、コミュニケーションの場を広げていくことも大切です。色んな場所で色んな人と触れ合うことで、幅広い経験を蓄積することができます。
想像力は経験の裏返し
経験が多ければ多いほど、もしも…というシチュエーションを見つける可能性は増えていきます。
またタイプの違う人々と接することも想像力を育むポイント。芝居で貰う役柄は必ずしも共感できる人間とは限りません。
そんな時に役立つのが、自分と違うタイプの人々が持つ性格や価値観。自分と正反対の人であっても、普段からさまざまな価値観の人々と接していれば、共感できるポイントや価値観が形作られた背景を想像することが可能になります。
名優ほど気さくでフランクな人が多いのも、こういった意識があるからかもしれませんね。
④普段見ないジャンルの映画を見る
テレビはあくまでCMが視聴者に購買欲を訴える仕掛けになっているためなるべく長く見続けてもらうことを目的に作られています。つまり自分で考える必要がなく流し見できる状態です。
一方で映画はCMなどを挟まず、一つの作品が2時間前後で語られます。そのため物語に没入して、物語を追ったりキャラクターの言動の理由を考えたりできることが映画の魅力ともいえます。
また人の想像力も考慮した上で演出や芝居が作られている側面もあるため、映画を見ながらその展開を想像していくのも有効なトレーニング方法です。
自由な映画はジャンルも多種多様。異世界ファンタジーや裏社会もの、SFや実話など多岐にわたりますが、想像力のトレーニングとして見るのなら普段あまり見ないジャンルを選ぶことをおすすめします。
鑑賞後は、印象に残ったシーンや感想をノートやスマホのメモなどに記してみましょう。自分の語彙力を知るだけでなく、自分がどんなものに惹かれるのかが明確になり理想とする芝居を視覚化することができます。
⑤日常の不満は「なぜ?」と変換する
夢追い人にはアルバイトで生計を立てながら活動する人が多いかと思います。
すると必要な時にお金が無かったり、やりたくもないアルバイトで嫌な思いをしたりと、日常における不満は多いもの。しかしそんな経験も想像力を培う絶好のチャンスです。
本来、想像力の根っこにあるのはなぜ?という好奇心。
子どもの想像力がたくましいのは、この好奇心が旺盛なためです。大人になってこの探求心が生まれるのは、実は好きなことや得意なことをしている時よりも嫌なことや苦手なことに直面した時になります。
そしてそれは人間関係の中で起こることがほとんど。アルバイト先の嫌な客や、苦手意識のあるレッスン仲間と出会った時が、想像力を使うかどうかが試されるシーンです。
基本的に人は嫌なもの・苦手なものは避けて通りたい生き物なので、スルーしたり後で愚痴ったりする選択ももちろんあるでしょう。
でも想像力を鍛えたいのなら、まずは相手の気持ちを想像してみることがおすすめです。
なぜあんな事を言うのだろう
なぜこの人を苦手と感じるのだろう
最初は少し気が乗らないかもしれませんが、自分が分からない人の言動こそ想像力を働かせるチャンスであり、思い掛けない感情を知るキッカケとなります。
慣れてくると自分の怒りをコントロールするアンガーマネジメント力やコミュニケーション能力も付いてきますので、トレーニング方法の中でもメリットの多い方法です。
⑥電車内ウォッチング
ファミレスウォッチングや街角での人間観察などもありますが、想像力のトレーニングとしておすすめしたいのがこの電車内での人間観察です。
電車は老若男女問わず利用する交通機関であり、職業の偏りなどもありません。くわえて、おしゃべりをする人がほとんどいないため集中して想像できる絶好のトレーニングポイントです。
ただしあまり見過ぎてしまうと怪しまれるリスクもあるため、本やスマホでカモフラージュしながら観察するようにしましょう。
やり方は簡単。①あるグループや個人に目を付けたら、②持ち物や話しぶり・仕草や体型などから、③年齢や性格・いま電車に乗っている理由などを推理していきます。
もちろん正解は分からないのであくまで想像力のトレーニングです。
他にも最初に第一印象を探り、そう感じた理由を探し出してみるやり方もあります。この遊び方では、思いがけず自分が持っている偏見が見つかることも。
自分の中にある偏見を知ることも、想像力を鍛えるためには欠かせないポイントです。自己嫌悪することなく、素直に向き合っていきましょう。
⑦スマホを切って出かける
ここでの“出かける”は、景色を見て、街や自然の匂いを嗅ぎ、美味しいものを食べて、人の声や雑踏を聞きながら、自分の足で歩くことです。
外に出かけることはそれだけで五感を存分に動かすトレーニングになります。そんな時にそれら全てをシャットアウトするスマホを見てしまったら、せっかくの経験も台無しに。
豊かな想像力は豊かな経験によって広がります。
たまにはスマホを切って思う存分、好きな場所を堪能してみるのもおすすめです。
旅行をするなら、その地域特有の文化に触れたり日常では味わえない体験をしてみたりするのも効果的。旅行の醍醐味は何といっても“日常から離れること”にあります。五感をフルに活用しながら、未知の感覚や感情を体験して、身体の経験値を上げていきましょう。
想像力を鍛えると人間力アップにも
想像力を鍛えることは役者としての力はもちろん、人間力のアップにも繋がります。
役者にとって大切なのは演技力だけではありません。
売れるためには自分をコントロールする力、周りの人とコミュニケーションをとる力、豊富な経験、知らないことへの好奇心など人としての魅力があることも大事な要素です。
それら全てに通ずる力が想像力。人間力を鍛えるとなると難しく感じるかもしれませんが、想像力を鍛えるなら今からでもすぐに取り組むことができます。
子どものような感性を育てれば、つまらないものも面白いものに見えてくるはず。想像力のタネを増やしながら日々コツコツとトレーニングしていきましょう!