インボイス制度は2023年10月より新しく始まる新制度です。
至る所で反対運動や署名活動が行われているため聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。しかしインボイス制度といわれても細かな内容や具体的な変化について詳しくはわかりませんよね。
そこで今回は初心者向けにインボイス制度についてザックリ解説していきます。一つ一つ疑問を解決したい人は用語確認から、流れで理解したい人はQ&Aからチェックしていきましょう。
インボイス制度は日本国内に住む人であれば全員に関係のある新制度です。特にフリーランスや個人事業主として働く役者にとっては活動自体に関わる項目です。なるべく優しく解説していますので大体の内容だけでもぜひ把握しておきましょう。
なお「税務書類の作成」「税務代理」「税務相談」は税理士の独占業務に当たります。当方は税理士ではないため税務相談の問い合わせにはお答えできません。本記事もあくまでインボイス制度の内容を噛み砕いたものです。手続きにおける根拠とはなりませんのでご了承ください。具体的かつ個別的な内容判断については所轄の税務署または税理士に確認しましょう。
まず用語を大まかに理解しよう
インボイス制度を最も分かりにくくしているのが聞き慣れない難しい用語の数々。インボイスについて調べても最初から言っている言葉の意味がわからず挫折した方も多いのではないでしょうか。
わたしもまさにその一人。用語も分からず読んでいく内に全体の概要もあいまいになってしまいました。
そこで!ここではまずインボイス制度に登場する用語について分かりやすく簡単に説明していきます。この先を読むときの辞書代わりとしても活用してみてくださいね。
インボイス制度
正式名称を「適格請求書等保存方式」という2023年10月1日から始まる新しい制度です。仕事における請求書の取り扱いに関わるもので主に個人事業主や法人が対象となります。
個人事業主
会社と雇用契約を結ぶサラリーマンとは異なり個人で事業を営む人のことです。法人は設立せず個人で開業届を出している人を指します。次のように雇用契約以外で働いている人なら大体が個人事業主にあたります。
- 一人で作品制作を行う漫画家
- 家族経営の個人飲食店の店主
- フリーランスとして所属する声優や俳優
免税事業者
国に納める消費税の支払いが免除されている事業者のこと。本来個人事業主であっても法人であっても受け取った消費税は国に納めなければいけません。
しかし日本では、決められた期間における課税売上が1,000万円以下の場合消費税の納税義務が免除されます。(参照:国税庁「No.6501 納税義務の免除」)
そのため免税事業者は個人事業主や小規模事業者である場合がほとんどです。
課税事業者
課税売上が1,000万円を超えているため消費税を納付する義務のある事業者のこと。基本的に事業者は免税事業者か課税事業者のどちらかに相当します。
仕入税額控除
売上の消費税分から仕入れの消費税分を差し引いて納税する仕組みのこと。(参照:国税庁「No.6401 仕入控除税額の計算方法」)
今回のインボイス制度で一番重要なポイントとなります。消費税の累積(二重課税)を防ぐための制度です。
適格請求書
これこそがインボイス(=適格請求書)! 2023年10月より新たに指定された国公認の請求書です。これから仕入税額控除を受けるためには必ず適格請求書での取引が必須となります。
登録番号
適格請求書に記載しなければならない番号のこと。インボイス制度に対応した事業者のみに配られるマイナンバーのようなものです。
「登録番号を持っている=適格請求書を発行できる=仕入税額控除を受けられる」ということになります。
Q&Aで知る【インボイス】
ではインボイス制度では一体なにが起こるのでしょうか?ここでは疑問になりがちなところをザックリと質問形式で解説していきます。分からない用語は都度確認しながら自分のペースで理解していきましょう!ほかのサイトと照らし合わせつつ見ていくのもおすすめですよ。
インボイス制度で何が変わる?
インボイス制度が始まったら、会社は仕入税額控除を受けるために仕入れ先から適格請求書を受け取る必要があります。
しかし適格請求書を発行できるのは課税事業者のみ。仕入れ先が免税事業者であった場合、会社は仕入税額控除を受けることができません。
仕入先と売上先の違いって?
アニメ制作会社の例で見ていきましょう。アニメ制作会社にとっての売上先はもちろん消費者です。そして仕入先はアニメーターや声優となります。
リフォーム会社なら大工、芸能事務所なら俳優といったようにサービスに必要な商品・材料・部品を作る人々が仕入先にあたります。
仕入税額控除がある場合はどうなる?
例えばアニメの売り上げが110万であればアニメ制作会社が売上先から受け取った消費税は10万円です。さらにアニメーターや声優にはギャランティとして55万円支払ったとします。
するとアニメ制作会社は売上先から10万円の消費税を受け取っていますが、仕入先には5万円の消費税を支払っています。「この5万円は差し引いて納税額は10万円でいいよ」とするのが仕入税額控除です。
仕入税額控除が無いとどう困るの?
仕入税額控除が無いと、会社は売上先からもらった消費税も仕入れ先に払った消費税も合わせて国に納税しなければなりません。
適格請求書がない限り「仕入れ先に消費税を払った」という証明ができないためです。
先ほどの例で言うとアニメーターや声優が免税事業者であったら適格請求書を発行することはできません。するとアニメ制作会社はギャランティで5万円払っていると証明できないため、国に15万円の消費税を納める必要があります。
困るのは個人事業主?会社?
会社が仕入税額控除を受けられないのは免税事業者に発注した場合のみです。アニメーターや声優が課税事業者であれば、会社が納税する消費税は今まで通り差し引きされます。(上記の例でいれば10万円でOK)
そのためインボイス制度が始まったら会社は課税事業者とのみ仕事を行った方がお得です。
課税売上が1,000万円に満たないからと免税事業者を続けていた個人事業主は廃業のリスクが高くなります。
個人事業主も課税事業者になればいい?
もちろん課税事業者になれば仕事が切られるリスクは低くなります。その代わりこれまで免除されていた消費税を国に納めていかなければなりません。
つまり個人事業主は免税事業者でいるか課税事業者になるかどちらが得かを考える必要があります。免税事業者のままなら取引先から切られる恐れがあり、課税事業者になれば消費税の負担が増えるのがインボイス制度です。
免税事業者は課税事業者になるべき?
課税事業者になるかどうか(=適格請求書発行事業者になるかどうか)は任意です。いま免税事業者であるからといって必ずしも課税事業者にならなければいけない訳ではありません。
インボイス制度に対応すべき人は?
基本的に取引先が課税事業者である人はインボイス制度に対応した方が無難です。ただしインボイスに登録することは課税事業者になることを意味します。課税事業者になると納税義務が発生するため収入が下がる可能性に注意しなければなりません。
インボイス制度の目的は?
インボイス制度の目的は主に次の3点です。
- 取引の透明性を高めるため
- 消費税額を正確に把握するため
- 消費税に関わる不正やミスの防止
これまで不透明だった取引内容を明確化することで、税務署は取引における消費税額と消費税率を正しく把握できるようになります。
インボイス制度のメリットとデメリット
インボイス制度ではインボイスに対応するかどうかでメリット・デメリットが変わります。それぞれの利点と欠点を把握した上で免税事業者のままでいるか課税事業者になるかを検討していきましょう。
免税事業者の場合(インボイス不対応)
- 今まで通り消費税の納税は免除される
- インボイスによる収入への打撃は少ない
- 競合に負ける可能性が高い
- 取引先が課税事業者に乗り換える恐れがある
- 取引先から値引きを要求される可能性がある
免税事業者のままでいればこれまで通り消費税の負担はありません。しかし免税事業者と取引する会社は仕入税額控除が受けられないため負担がアップします。よって取引自体を切られる恐れが高くなる点がデメリットです。
課税事業者の場合(インボイス対応)
- 取引先から切られる心配がない
- 3年間は負担軽減措置(2割特例)を受けられる
- 消費税の支払い義務が生じる
- 収入が減る可能性が高い
- 経理が複雑化する
一方でインボイスに対応するため課税事業者になると消費税の納税義務が生じます。取引が切られる心配はなくなるものの収入自体に打撃がある点がデメリットです。またインボイス制度に対応して適格請求書を発行するためには、より細かいルールが指定されています。経理自体が難しくなる点もデメリットといえるでしょう。
インボイス制度は国民の生活を変える
インボイス制度自体は会社間における請求書の取り決めでしかありません。しかしインボイス制度は個人事業主やフリーランスにどちらの損を取るか選ばせることになるため反対運動も多く巻き起こっています。とはいえ次の視点次第ではインボイス制度を良しとする人がいることも事実です。
消費税をどう捉えるか
免税事業者をズルいと思うか
個人の考えとしてはやはりインボイスは事業者の約4割を占める免税事業者に苦渋の決断を強いる悪法だと思っています。インボイス制度が始まってしまえばどちらを取っても収入低下のリスクは避けられません。
私たちの生活は免税事業者とされる中小企業や個人事業主、フリーランスによって日々支えられています。この機会にぜひインボイス制度について知ってもらえたら幸いです。