闇に消え去る怪事件
謎めいた空間での有り得ない殺人
見知ったはずの知らない顔
現実では体験しえない事件や出来事の真相をめぐるミステリー小説は読者を推理の迷宮へと誘います。ひとたび扉を開けばそこは興奮冷めやらぬ謎と真相のオンパレード。
緻密な伏線が張り巡らされた道を歩んでいく読書体験は、ほかのジャンルにはない興奮と驚きの旅路です。古今東西人々の興奮を惹きつけてやまない謎解きの旅へぜひ出かけていきましょう!
ミステリー小説の魅力とは
読者を信用しないキャラクター
ミステリー小説ではほかのジャンルと同じようにさまざまなキャラクター達が活躍します。しかし恐ろしいのはミステリー小説のキャラクター達が必ずしも読者を安心させる立場にないことです。
ミステリー小説では当然解くべき謎や怪事件が登場します。キャラクター達は疑ったり疑われたりしながら物語を進めていきますが、読者の手を引いてくれるわけではありません。貴方が着いていくその人は本当に信頼に足る人物なのでしょうか。
知的好奇心を弄ぶプロット
ミステリー小説の真髄は予測不可能な展開にこそあります。ずっと歩いてきた道が突如として崩れ去る恐ろしさはミステリー小説ならではの快感です。どう進んでも危険なはずなのに読者は道を進む足を、ページをめくる手を、止めることができません。なぜなら知的好奇心は人の最たる欲望であるから。
もう真相はわかったはずなのに、
犯人はアイツに決まっているのに、
自分のペースで歩かせてくれないミステリー小説の道のりは、読者を常に安心させることなく予測不能な結末へと導いてゆきます。急転直下のジェットコースターに貴方は振り落とされずにいられるでしょうか。
読者の心を利用するトリック
ミステリー小説のなかにはプロット外であるはずの読者の心を利用して罠を仕掛けるものもあります。信頼できない語り手はその王道にして最たるものといえるでしょう。
偉大なミステリー小説を通してわたしたちは償い切れない社会の闇や人間の醜さ、モラルや道徳を凌駕する邪悪を知ることとなります。ミステリー小説は社会の鏡。読後感の味わいは自己中心的で甘美な実感。人間の本質をあぶりだすミステリー小説は、いつだって私たちを疑心暗鬼の旅へと誘いつづけます。果てない人間の欲望や罪悪感を覗きながら貴方は何を思うでしょうか
寝不足必至!傑作ミステリー小説10選
その人生は完璧か不完全か「そしてミランダを殺す」
とある空港で暇を持て余していたテッドはバーでリリーと名乗る美しい女性に声を掛けられる。一期一会の酔いが回ったテッドはつい妻ミランダの浮気を愚痴り「殺したい」と口走ってしまった。しかしリリーは顔色一つ変えることなく殺害計画の協力者を申し出て…
単なる犯罪小説かと思いきや、あれよあれよという間にとんでもない蟻地獄にハマっていくスリル満点のサスペンスミステリー。殺すものと殺されるもの、それだけで終わるはずだった筋立てはある異質な存在によって思いも寄らない方向へとかき乱されていきます。
各々の主義主張を語る彼らの後ろを着いてゆくなか理解の及ばない生き物が潜んでいる事実に貴方はどこで気付けるでしょうか。開いた口が塞がらない急転直下の結末も含めて読み応えのある名作です。
圧巻の世界観を誇るSF大作「星を継ぐもの」
「宇宙のいかなる力も、われわれを止めることはできないのだ」
時は西暦205X年。月面を調査していた一行は宇宙服を身に付けた死体を発見する。奇妙な緊急事態に地球では徹底した調査が行われるも、世界各国において該当する人間は存在しなかった。それどころか見つかった死体は現代人と変わらない姿形でありながら、5万年以上前に死んでいたことが発覚する…
本作が登場したのはなんと1977年。今なお世界中のミステリー好きを魅了し続ける原点にして頂点のSF傑作ミステリーです。月で宇宙服を着た5万年以上前の死体を発見するという奇妙で不可思議な幕開けから始まるストーリーはインパクト大。
”彼”は人間なのか
どこからやって来たのか
月で何をしていたのか
人間の歴史そのものを嘲笑うかのような矛盾は調査団も有識者も漏れなく混乱の渦に叩き落します。死体が持っていたアイテムに別惑星での発見。謎が謎を呼ぶ展開の先に現れる唯一無二の正解には、本作を傑作たらしめた信じられない光景が広がります。
夜分厳禁の暗黒ミステリー「火のないところに煙は」
絶対に疑ってはいけないの。
ある日作家として活動する”私”の元に怪談の執筆依頼が舞い込む。オカルト関連の執筆経験がないため断ろうとするが、”私”には過去に置き去りにしたままの苦く凄惨な記憶があった。過去の事件を書き記すことで前に進むことを選んだ”私”は、初めての怪談執筆に挑戦するが…
主人公は”私”であり執筆するのは初の怪談小説…そう、本作はモキュメンタリーの手法を踏まえた実際の出来事風に進んでゆきます。連続する恐ろしく不可解な短編小説は全部で5編。
- 第一話「染み」
- 第二話「お祓いを頼む女」
- 第三話「妄言」
- 第四話「助けてって言ったのに」
- 最終話「禁忌」
一つ一つの話は独立していて異なる怪異の恐ろしさが語られていきます。どれも調べればすぐにヒットしそうな生々しさがあり日常をすこし外れれば遭遇しそうな恐怖ばかりです。しかし真の恐ろしさが待ち受けるのは最終話「禁忌」。
火のないところに煙は、
貴方はどう続けるでしょうか。
奇妙な落とし穴にハマる「葉桜の季節に君を想うということ」
「そうなんだよ皆桜が紅葉するって知らないんだよ」
主人公・成瀬将虎は何でもやってやろう屋を掲げる元私立探偵。ある日高校の後輩・芹澤清から彼の想い人・久高愛子の相談依頼を引き受けるようにお願いされる。愛子の相談事とは悪徳商法により身内が殺されたのではないかという疑惑の調査だった…
- 第57回 日本推理作家協会賞受賞
- 第4回 本格ミステリ大賞受賞
- 「このミステリーがすごい!」2004年版第1位
- 本格ミステリベスト10 2004年版第1位
- 週刊文春 推理小説ベスト10 2003年度第2位
登場するやいなや各ミステリー賞を総なめにした本作には絶対に映像化できない驚きのトリックが隠されています。読書家であればあるほど唸らされる仕掛けは圧巻の一言です。
悪徳商法業者を追う中、主人公に芽生える新たな恋。偶然か必然か二つのスリルが重なったとき明らかになる真実の景色は驚かずにはいられません。
特にラスト数ページに綴られた言葉は一生覚えておきたい名文。一見ラノベ小説のようなタイトルも見事なまでに作品の一部とした人に薦めたくなる名作です。
天才の頭を覗き込む「すべてがFになる」
人間は誰もが最初は天才
そして、だんだん凡人になる
舞台は優秀な才能が集う孤島の真賀田研究所。人並外れた頭脳を持つ科学者たちを率いるのは人類最高の頭脳を誇る天才工学博士・真賀田四季だった。しかしN大助教授・犀川創平と学生・西之園萌絵が島を訪れた日、彼女は四肢を失った悲惨なウエディングドレス姿で発見される。完全密室で自殺も疑われるなか医師・弓永富彦は告げる。「遺体の状態から殺人である」
本作を端的に紹介するならば天才が描いた天才の話。著者である森博嗣氏は工学部教授として勤務しながら本作「すべてがFになる」で衝撃的なデビューを飾りました。第1回メフィスト賞も受賞しましたがメフィスト賞は彼の作品の為に生まれたとされています。現在300冊以上の作品を手掛けジャンルも問わない自由な作風が特徴です。
「すべてがFになる」では研究室の職員たちに主人公犀川、そして四季博士と数多くの天才が登場します。全員が人並外れた頭脳を持ちながら天才にグラデーションを付けるという芸当は作者の頭脳無しには成立しません。
完全密室内で行われた両手両足を切断しての凄惨な殺人
ストーリーを半分ほど書き上げるまで犯人を考えないという著者が描く驚愕のトリックと有り得ないはずの真相は、凡人たる私の頭脳を根底から揺るがすものでした。天才の頭の中を覗き込む刺激的な体験を、ぜひ体感してみてはいかがでしょうか。
全員が敵で味方「冷たい校舎の時は止まる」
「ねえ、どうして忘れたの?」
雪の降る朝いつものように登校した8人の高校生。しかしいくら待っても誰もこない。不審に思い周囲を探ると扉は空かず時間はなぜか5時53分で止まっていた。冷たい空気が包む校舎で8人は亡くなった同級生を思い出すも、その顔と名前がわからない。そもそも、私たちは最初から8人だっただろうか…
恋愛も友情も勉強も部活もイベントも、やりたいこととやるべきことが詰まった青春時代。少しのかけ違いで起こってしまった悲惨な事件は8人の心に拭い切れない暗い影を落とします。
なぜ5時53分なのか。思い出せない彼/彼女の名前は。一気に謎がなだれ込むスタートダッシュは息つく暇もありません。青春の光と影を背に導かれる忘れ去られていた真実は、思いも寄らない終着点へと辿り着きます。人気作家・辻村深月氏身が高校生だった頃に書き始めた、誰しもの”あの頃”の記憶が蘇る鮮烈なデビュー作です。
一生に一度の恋「イニシエーション・ラブ」
恋愛に縁のない地味な大学生・鈴木は代打で呼ばれた合コンでマユと出会う。マユに惹かれつつも自分に自身のない鈴木は恋の為に一念発起。マユに見合う男になろうと努力を重ねてゆき遂に二人の関係性に変化が訪れるが…
そう本作は謎や事件の一切ない純粋なラブストーリーとして描かれています。地方に生きる何の変哲もない二人の男女。合コンにデートに季節のイベントと、これまたありきたりな展開に少々面食らうかもしれません。
しかし本作最大の衝撃は全てを読み切った人だけに明かされます。シンプルながらもタイトルまでもを一気に回収する仕掛けはお見事。恋愛小説の皮を被った巧妙なロマンスミステリーをぜひ体感してみてくださいね。
原点にして頂点「十角館の殺人」
ある年3月、大学で推理小説研究会に所属する男女7人は合宿と称して無人の孤島角島を訪れていた。彼らの目的はかつて凄惨な殺人事件ののち焼け落ちた青屋敷跡と島に唯一残る十角館。趣味に打ち込む一週間になるはずだったが、誰もいないはずの孤島で一人また一人と息の根を止められてゆく…
1987年に登場し日本に本格ミステリーブームの大旋風を巻き起こした本作は、王道の密室ならぬ密島での連続殺人事件を展開してゆきます。
たった1行で全てが覆る鮮やかな流れはインパクト大。すぐさま冒頭から読み返したくなる衝撃は何年経っても忘れられません。
ミステリ好きが高じて互いに古今東西のミステリ作家の愛称で呼びながら好き勝手に推理合戦を繰り広げる様子もなかなか爽快。知的かつ粋な小ネタも散りばめられており推理小説好きならより一層楽しめる一作です。
主人公は殺人鬼「ハサミ男」
わたし の 真似 をしたのは 誰 …?
時は2003年、東京。女子高生2人が喉元に深く鋏を突き刺され殺される。メディアはセンセーショナルな連続猟奇殺人事件の犯人を「ハサミ男」と称して騒ぎ立てる。一方当のハサミ男は次の殺人に向けてに綿密な下調べを行っていた。しかし下調べ中に自身の手口で殺害された覚えのない死体を発見してしまう…
主人公視点を犯人側に置いた画期的なミステリー作品。犯人であるはずのハサミ男は自分が犯していない自分の手口にしか見えない死体の第一発見者となってしまいます。
突然訪れる信じ難い急展開には頭が追い付きません。冒頭から追われる側が語り手である故の緊迫感は他の作品にはないスリルです。ぜひ最後の一行まで気を抜かずお楽しみくださいませ。
死んだ友達はどこへ「向日葵の咲かない夏」
小学4年生の夏。終業式後欠席したS君の家にプリントを届けに来たミチオは首を吊ったS君を見つけてしまう。急いで学校に引き返し先生に報告するも、家に帰されたミチオに届いたのは“Sの死体なんてなかった”という知らせだった…
よくある平凡な風景から戦慄の景色に切り替わる本作は、主人公ミチオが犯人探しに奔走する様子を描いていきます。
行方不明扱いとなったS君は本当に死んでしまったのか
ミチオが見た景色は一体なんだったのか
すべての真相がわかったとき賛否両論の結末が読者の眼前に突き付けられます。少なくとも爽快な青春ファンタジーには終わりませんのでどうぞ覚悟してご覧ください…
ミステリー小説で世界が変わる
ミステリー小説というとなんだか高度な読解力が必要な気がしてしまうかもしれません。しかしミステリー小説の醍醐味は現実社会に生きる貴方が読むことで生まれていきます。予測不能な展開は平凡な日常あってこそ。現実では体験しえない浮遊感が味わえるのもミステリー小説ならではの魅力です。
思わず声を上げてしまう衝撃の展開から崩れ落ちそうになる不穏な結末まで、現実の喧騒は忘れて没頭してみるのも一興。一度やられたら次の難問へ、事件を自由に冒険していくのも良いでしょう。
世界を見つめ自身を見つめる不可解で痛快な謎解きの旅をぜひ気ままに楽しんでみてはいかがでしょうか。
\どんでん返しの旅路は映画でも/