SNSでたまに見かける現代短歌。ガツンと殴られるあの体験は短歌でしか味わえない不可思議な快感です。
今回は個人的にガツンときた一句を添えておすすめの詩集をご紹介。世界で最も短い小説、詩集の世界をご堪能ください。
おすすめの一句で選ぶ歌集選
サイレンと犀
もういやだ死にたいそしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい
岡野大嗣氏によるナイフのような詩集。生きることと死ぬことを同じ目で捉えながら暗くてじめじめした人間の根っこを撫でてくれるような作品です。
死にたいが、生きたい
毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである
努力とは希望を持っている人にだけゆるされたまぶしい助走
愛と勇気と悔しみにまみれた枡野浩一氏による寄る辺ない人生の賛歌。飾らず驕らずまっすぐに生きようとする人のいじらしさが美しい作品です。
中澤系歌集 uta0001.txt
出口なし それに気づける才能と気づかずにいる才能をくれ
静かだけれど確かに存在している数多の大衆を照らすような詩集。39の若さでこの世を去った歌人中澤系氏の本作は絶望しているようでそうではない、ただどうにかと思ってしまう人にコトリと置かれたプレゼントかもしれません。この世界をディストピアだと解釈する人にこそ届いてほしい作品です。
ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ
地上絵
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
橋爪志保氏による宝箱のようなかわいらしい詩集選。キラキラ反射する水面のようなあっけない日常の美しさがこれでもかというほど鮮やかに切り取られています。
えーえんとくちから
あたたかい電球を持つ(ひかってたひかってました)わかっています
彗星の如く飛び去ってしまった笹井宏之氏による限りなく透明に近い歌はとても柔らかで優しく触れたら崩れてしまいそうな短歌が透き通って心に入り込んできます。
ガツンとこなかったものもいずれ心にやってくるんだろうと確信できる名著です。
暮れなずむホームをふたりぽろぽろと音符のように歩きましたね
老人ホームで死ぬほどモテたい
大体はタンパク質と水なのにどうして君が好きなんだろう
重苦しい生をパンクにキュートに歌い上げる様は痛快愉快。ともすれば人生の重みになるような出来事を蹴散らすように赤裸々に昇華する誇り高い作品です。上坂あゆ美氏の生き様が透けるような短歌たちはカラッとした快晴を思わせます。
魚にはまぶたがないのでたいせつなことを見逃すこともできない
コンビニに生まれかわってしまっても
生きていく 求人サイトの検索に「一人でできる」とまず打ち込んで
名作だらけの西村曜氏の短歌集。使われる言葉はシンプルなのに実体験のようなリアルさは世界の彩度を少しだけ上げてくれます。急に自分のやわらかいところを刺されるからお気をつけて。
きみを嫌いな奴はクズだよ
立てるかい君が背負っているものを君ごと背負うこともできるよ
ユーモラスでポップな作品が光る木下龍也氏の短歌は初心者にもおすすめ。恋愛かと思えば戦争の影が見えたり目まぐるしく変わっていく情景にきっと刺さる瞬間がやってくるはず。あと佐藤が気になって仕方なくなります。
幽霊になりたてだからドアや壁すり抜けるときおめめ閉じちゃう
『あなたのための短歌集』
「きみを嫌いな奴はクズだよ」を手掛ける歌人・木下龍也氏はユニークなことに短歌の個人売買も行っています。その個人販売プロジェクトから選ばれた100首が詰まった歌集が本作です。
22歳を迎える人へ。
教室の隅っこに座る君へ。
家族を失ったばかりのあなたへ。
たった一人のために生まれた短歌はため息の出る美しさです。お題と短歌どちらを先に見るかで変わる感覚もぜひお楽しみください。